この年の夏は日本列島を大きく割るほどに西と東で気候が違い、
西では連日の猛暑日と熱帯夜が続いたそうだが、
東と北では曇天が続いて、雨の日も多く。
炎天とはよしみ薄かったが、その代わりのように湿気に付きまとわれ続け。
一旦去った梅雨が舞い戻ったような感さえあって、
夏ならではの浮かれた騒ぎの果ての犯罪が少なかった代わりのように、
心持ちを病んだ末らしき陰鬱な犯罪が例年より目に付いたような気がする。
通りすがりの誰でもいい、切り裂いて薙ぎ払いたいという暴発系の通り魔や、
気が弱い自分を陰で嘲笑っているのではないかという妄想の末に
近隣の住人らを片端から刺して回った青年とか。
あまりに陰惨だったうえ、
どうやら外国からこそりと入り込んだよからぬ薬が絡んだ代物だったらしいのでと、
公には詳細が公表されぬままどころか、事件自体幾つかに分割されて
小ぶりの殺人事件群と処理されたものもあったことは、
公安系省庁の上層部と、その直属の特殊事件を扱う部署しか知らぬこと。
同じようなポジションの部署に、
やはりやはりおいそれとは公に出来ぬだろう案件を取り扱う“異能特務課”というのがあるが、
そちらはどういうわけか…恐らくは事案の発生率が不思議と高いからだろう、
首都の本部とは別、格としては同等な規模の支部がヨコハマにあり。
それは優秀な頭脳と機動力とを誇る遊撃部隊…のようなもの、
彼らが頼りとし、協力体制を請う辣腕な探偵社があるのもその街だ。
何せヨコハマという土地自体、
東西の陰と陽とが入り交じる、どこか妖冶な空気を潮風に載せ、
眠らぬ夜を抱える、困った栄えようをし続ける都市でもあるのだから…
◇◇
『気候なんてものに左右されてとち狂ってるあたり、
人というのはどれほど文明を得ても根本は変わらないのだねぇ。』
灼熱の太陽が照ってりゃあ照ってたで、夏の暑さが狂わせたと言うのだろうし、
こたびのように、数日降り続いた雨のせいで陰鬱な気分になったと
いきなり吠えたてながら凶器を振るって家族を攻撃した青年のようなケースも
実を云や いつの世にも 後を絶たぬ代物で。
意志の弱いものはささやかな変化にも鋭敏となり、
果ては誰も観てなんぞいないというに責められている気がして、勝手に焦燥に駆られる。
それへの引き金に異常気象がかかわるというのも、
あながち無い話ではないのだろう。
例えば、世の東西に於いての昔から、満月の光は魔性を招くとされていて、
数々の魔物の存在や、自殺率の高さなんかがまことしやかに並べられ、
でもそれらは明かりも乏しい時代に危険な夜歩きを窘めるための迷信だとされていたが、
近年、そうでもないらしいという説が現れて。
満月は海の水を数値で表せるほども引き揚げるほどの引力を齎す存在だから、
他にだって影響を齎さぬと誰が言いきれようか。
月光には不可思議な作用をもたらす力があるようだなんて研究が
真剣真面目なそれとして進められてもいるというし、
“月に影響されやすい子も実際に身近にいるくらいだし。”
勿論のこと、そちらへは“忌むもの”なんて把握はしちゃあいない。
望んでもない異能なんてものに振り回されてる気の毒な子供でしかなく、
しかもそんなとんでもない事実を知って尚、
それと向き合い、負けるものかと、何が何でも生き抜いてやると踏ん張る、
なかなかに意気地の強い子で。
“時々挫けかかるけど、まだ未成年の少年だけに致し方ない。”
何せ、そんな異能が呼び招くのか、彼の不運遭遇率はなかなかに高い。
どっかのアニメの忍者のタマゴの保健委員会の長のように半端なく高い。(こらこら)
のちにはそれでも守ってもらえていたのだと判明するのだが、
知らない内はどんな地獄かと思うほかない酷な虐待を
幼い身を置いていた孤児院で受け続けていたし。
もはや守り切れぬと追放されたのもその異能のせいならば、
そんな身だと見抜いたついでに拾ってもらえた職場での初めての任務で、
事情も判らぬままに狙われ、脚をもがれるほどの半殺しの目に遭うし。
それが幕開けだったかのように、
それからの彼には ほんの一年ほどの間に
あれやこれやと…世間を引っ繰り返すよな大きな騒動込みの災難苦難が降りかかり、
斬られ貫かれ、攫われ、売られかけ、
天空から飛び降りたり、機関銃で狙われたり、途轍もない爆発に巻き込まれたり、
人知を超える級の、覇気というか強靱さという能力を持つ犯罪組織の長と
ヨコハマを賭けてという決死の対決をする羽目になったり、
そりゃあもうもう、幾つもの冒険活劇奇譚が余裕で紡げるほどの体験をしまくった。
にもかかわらず
それは純朴で前向きな少年は、
善も悪もなく誰をも惹きつけてやまぬ
もしかしてだからこそ災難が降るのか、
だけど協力者が現れるよという皮肉な定めを背負った
型破りな救世主だとでもいうのだろうか。
“そこのところはある種の魔性かもしれぬと
穿った見方さえしたくなるのだが…。”
だって、無垢なまま、無邪気なままに、
犯罪者集団という悪に身を置く顔ぶれさえ、気づけば惹きつけてしまってる。
彼の屈託のない天真爛漫さを差してお日様のようと言う者もいるが
太宰にはむしろ月のようだと思えてやまぬ。
太陽ほど自己主張はしないし、平安な時ほど及び腰なところも抜けない。
不器用で、近接型の異能は打撃系の戦いしか選べなくて。
そういった、地道で且つ控えめなところがではなくて、
今はまだ幼いから しゃにむさに隠れて目立たないが、
何でもない時に添うてくれる時の儚げな優しさが、得も言われず心地よく、
その健気さや優しさが、儚いが故に捕まえたくなる。
彼を知れば知るほどに、
頼ってほしい、構ってほしい、傍にいてほしい
どれも人としての原初の欲、自分にだけという独占のそればかり。
そんな甘えたな感情を引き出さす、どうにも困った存在らしくって。
重いものへ育ったら危険なそれに見入られないよう、
せめて見守っててやりたいと。
飄々と振る舞うことで誰とも同じ距離を置き、
何か起きれば後顧の憂いなく動けるよう身構えている自分でさえ、
気がつきゃ惹き込まれていると最近気づいて苦笑が絶えない、
元マフィアの大幹部様だったりするほどで。
だからこそ、このような事態が降りかかった彼へ、
おざなりな対応をとるわけにはいかぬと深慮を巡らせたのは、
決して身贔屓とか何とかではないと思う太宰なのだった。
to be continued. (17.09.10.〜)
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*魔法陣ぐるぐるの、恐らくは初期の 主題歌が好きですvv
苦労の多いルンルン姉さんがお気にでした。
そして今の今、
魔界のプリンス・レイドと芥川くんが妙にダブって見えて笑える腐思考よ。(おいおい)
いきなり妙な話をしてすいません。
今回のお話、書く前からちょみっと狼狽えているもので。
自分でメモ溜めたくせに、
こんなことあったりして、だったらこういう展開かな、
そうなったらこの人どうするかな…と、
前のあのドタバタ騒ぎを書きながら、内職の素材に埋もれながら、
懲りもしないで書き溜めたのは自分なのに…。
今回もまたちゃっちゃと進められるかが心配ですが、頑張りますね?

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